トガナリ

Column

25/11/18

vol.31 あの頃は、時代もマクラーレンを選んでいた気がする

トガブロを確認すると、マクラーレン570Sの納車は2019年の3月30日。その日は一粒万倍日、寅の日で天恩日! 戸賀編集長は納車日にもこだわる⁉

数々のクルマを乗り継いできたことから、業界でもかなりの“クルマ通”として知られる戸賀敬城。彼が選ぶクルマが持つそれぞれの魅力、さらには、そこから読み取ることが出来るクルマ選びの基準を、本人の口から語ってもらうのがこの『愛車遍歴決定版!』。話の聞き手は、戸賀(トガ)のCar Ex編集部時代の同期であり、フリーランスエディターの菅原(スガ)。編集部時代は、仕事も遊びもほとんど一緒に過ごしていたという「トガ&スガ」ならではの、懐かしい昔のこぼれ話もお楽しみください!

スガ 今回の愛車遍歴は、前回で予告した通りマクラーレン570Sです。スポーツカーということは、ファーストカーという位置付けになる訳だ。

そこでトガに聞きたいことがある。前回の感じでいくと、俺が言わなかったらファーストカーであるマクラーレン570Sの存在を忘れていたような気がするんだよ。マクラーレンに失礼だとは思わんのか?

トガ 確かに失礼な話しだ(笑)。そこは反省しています。でもベンテイガに乗って、自分がまだ何者にもなれていないことを再認識して、分不相応ということを学ばされた。

この経験って、あの頃の俺にはけっこうキツくて、かなり凹んでいたのは間違いないんだよ。あれを機に、クルマの選び方を少し考えるようになったしね。

スガ なるほど。でも570Sはベンテイガと同じ時期に乗っていたんだから、まだ分不相応という言葉を学び直す前に購入したクルマだよな?

ドアを上にはね上げる特徴的なディヘドラルドア(通称バタフライドア)を持つクルマを購入したくらいだから、購入時は、まだかなり調子に乗っていたと思うんだけど?(笑)

 


スーパーカー世代のオジサンは、この跳ね上げ式のドアとリトラクタブル・ヘッドライトには滅法弱いとされる(笑)


 

トガ 独立して、そこそこ順調にいっていたから、調子に乗っていた感は否めない(笑)。

調子に乗っていた証拠ではないけど、当時の俺は、ポルシェじゃない他のスポーツカーも試してみたくなっていた時期でもあったしね。

スガ お、気になるねぇ。例えばどんなクルマ?

トガ まぁ、いろいろ候補は挙げたんだけど、俺のイメージではフェラーリではなかったし、ランボルギーニでもなかった。何かがしっくりこない。そんなとき、目の前に現れたのがマクラーレンだった。

スガ さすがトガ! 良いところに眼がいくね。

トガ だろ(笑)。やっぱりイギリス車には、フェラーリやランボにはない上品さがあるんだよ。さらに、イギリスには純粋なスポーツカーを作り続けているロータスもある。だからなのか俺の中には、『イギリスのクルマには、純粋に走るのが好きな人が乗っている』っていうイメージがあるんだよ。

だから、「マクラーレンっていう選択肢もあるんじゃないか?」という考えに至った訳。そうなったら思い立ったが吉日、速攻で試乗に向かった覚えがある(笑)。

スガ トガさん、相変わらずクルマのことになると行動が早いっす(笑)。

 

 

ボディ剛性の高さが尋常じゃなかった!

 

トガ でなスガ、その試乗で俺がマジで驚いたことがあったんだよ。それは剛性の高さ。試乗車は570Sのスパイダーだったんだけど、スパイダーなのにマジでボディがガッチガチだった。オープン・モデルなのに、あの911の剛性が緩く感じるくらい本当にガッチガチだったんだよ。あれには純粋に驚かされた。

試乗車だし一般道だから、当然攻めた走りはできなかったけど、限られた環境での試乗でも、570Sなら自分がイメージしたラインをそのままにトレースできることも分かった。

さらに着座位置も完璧で、まさに走るために生まれたといっても過言ではない仕上がりだったんだよ。

スガ お、トガが珍しくスポーツカーをベタ褒めしている(笑)。

トガ いや、本当に何から何まで感動した記憶しかないんだ。ちなみにその試乗とは別の日に、『BRチャンネル』の取材で720Sのスパイダーにも乗ったんだけど、当時この動画が確か130万再生くらいされたんだよ。もちろん今では、もっと再生数は伸びているけどね。

それぐらい、この頃のマクラーレンは世間的にも注目されていたんだと思う。マクラーレンの走りの良さ、異次元の剛性感、世間の注目度を体感した俺は、フェラーリでもランボでも、もちろんポルシェでもなく、迷わずマクラーレン570Sを愛車にしたという経緯がある。

スガ 相当気に入ったことが分かる熱弁だな(笑)。ちなみに購入した570Sはどんな仕様だったの?

トガ 新車ではあるんだけど、このクルマも在庫車だった。だからオプションを自分で選ぶことは出来ないんだけど、在庫車の中から選べば、通常よりも良い条件での購入が可能だった。

で、選んだのがセラミック・グレーのボディカラーで左ハンドルの1台だったんだよ。ホイールは艶無しで、キャリパーがマクラーレンのコーポレートカラーのオレンジ。

内装は黒革に黒スウェード、そこにもオレンジの差し色が入っている、いかにもマクラーレンっぽい仕上がりの1台だった。

 


マクラーレンのコーポレートカラーが内外装に、差し色としてあしらわれている


 

スガ 英国車なのに右ハンドルじゃなくて良かったの?

トガ 確かに右ハンドルでも良かったんだけど、やっぱり俺は左ハンドルが好きなんだよ(笑)。でも色の組み合わせの関係で、確か選べたのが左ハンドルしか無かったような記憶もあるんだよなぁ。

そうそう、このセラミック・グレーというカラーは特別色なんだけど、曇り空の下では普通のグレーに見えて、明るいところで見ると、ちょっと水色がかった明るいグレーに見えるんだよ。

さらにマクラーレンには、MSO(マクラーレン スペシャル オペレーションズ)っていう特殊なサービスがあるんだけど、それをメチャクチャ取り入れて仕上げられた1台が、このセラミック・グレーの1台だった。

このスペシャルな1台を、赤坂のマクラーレン東京で購入したんだよね。

 

 

マクラーレン東京のアンバサダーに就任

 

トガ 俺が乗っていたからということでもないんだろうけど、なぜか俺が購入してからマクラーレンの売り上げがグッと伸びたらしいんだよ(笑)。

スガ それは間違いなく偶然だな(笑)。

トガ うるさい(笑)。まぁ、マクラーレンがあの時代にハマったということなんだろうけど、そこから縁が生まれて、マクラーレン東京のアンバサダーに就任することが決まるんだよ。

スガ マジか! マクラーレンのアンバサダーに選ばれるなんて、クルマ好きにとってかなり名誉なことだよな。

トガ そうなんだよ。そう考えると570Sは、俺の運気を押し上げてくれたクルマだったとも言えるよな。アゲ〇ンならぬ、アゲ車か(笑)。

スガ その表現は何とかしよう(笑)。

トガ 確か570Sは、2年半、いや3年かな? それくらい乗ったと思う。アンバサダーもけっこう長くやったから、その間にいろんなマクラーレンにも乗らせて貰った。

でもなスガ、愛車を雨に濡らすのが本当に嫌だったから、570Sは3年で4000キロくらいしか乗らなかったことは、内緒にしておいてくれ(笑)。

スガ 内緒にする訳がないだろ(笑)。

 

 

スーパースポーツなのに普通に乗れるのが、570S

 

トガ そうそう、570Sはバッテリーがリチウムだったのも最高だった。30分も走れば、あっという間にフル充電できるんだよ。マクラーレンに限らずなんだけど、フェラーリなんかも充電がヤバい。フェラーリは2~3週間、マクラーレンも4週間でバッテリーが上がっちゃう。

でもマクラーレンは、街中を20~30分走ればフル充電できちゃうんだよ。バッテリー上がりの心配をしなくて済む実用的なスーパースポーツなんて、間違いなくマクラーレンしかないと思うぜ。

 


キャビンの背後には、3.8リッターV8ツインターボユニットが搭載される


 

スガ あのボディデザインやディヘドラルドアの採用から考えると、実用からは程遠い存在に感じられるけどね(笑)。

トガ だよな。スポーツカーの中でも、さらに突き詰めたスーパースポーツなのに、街乗りでもまったく気を使わないで普通に乗れちゃうんだよ。

車内にあるスイッチを操作して前側の車高を上げれば、ガソリンスタンドの段差やマンションのスロープで下を擦ることもない。リヤカメラももちろん付いているし、まったく文句のつけ様がない最高の実用的スーパースポーツだったと思う。

さっき、自分のクルマで雨の日は走らなかったって言ったけど、ほかのマクラーレンにはアンバサダー特権で、かなり乗せて貰ったんだよ(笑)。実際に乗ってみた数々のマクラーレンは、雨の日はもちろん、ゲリラ豪雨の中でもまったく問題なかったし、サーキットで限界走行をしても、一度の不具合もなかった。スーパースポーツなのに、過酷な条件下であっでもノントラブル! あれには本当に驚かされたよね。

スガ 自分のクルマは小雨でも乗らないくせに借り物はハードに使う(笑)。

それでもトガは、最高の1台であるマクラーレン570Sを手離すことになるんだよな?

トガ まぁな。でも今回は俺から手放すことを決めた訳ではないんだよ。

 

 

クルマは欲しいと言われた時が売り時

 

スガ ということは、トガの570Sを欲しいという人が現れたってこと? 無理やり押し付けたんじゃなくて?

トガ そんなことをする訳がない(笑)。570Sは本当に良いクルマなんだけど、強いて言えば、エンジン音がイマイチだったんだよ。

確かにマクラーレンも、V6のアルツーラになってくらいからエンジン音にも色気が出始めた。でも、まだフェラーリやランボルギーニのエンジンサウンドと比べると、やっぱりちと寂しいんだよ。そんなこともあって、何となくほかのクルマに興味が出始めた頃、なぜか友人で制作会社を経営している若山社長から、「戸賀さん、マクラーレン、売ってくれませんか? いくらで売ってくれます? いつ売ってくれます?」みたいな感じで、熱烈に声を掛けられ始めたんだよ。

スガ あ、あれだ。若山社長のなにか弱みを握って買うように迫ったとか?

トガ だから、そんなことをする訳がない(笑)。本当に偶然だったんだよ。俺がほかのクルマが気になり始めたタイミングと、若山社長が俺の570Sを欲しくなったタイミングが、なぜかぴったり合致した。

前から言っている通り、「クルマは距離で買え」というのが俺の信条。また、「クルマは欲しいと言われた時が売り時」だと思ってもいる。

だから若山社長に、「売って欲しい」と言われた瞬間に、これは売り時だと判断したんだよ。話しを詰めていくと、諸々の条件も合ったので走行4000キロ弱の時に、即、売却したって感じかな。

スガ 前から聴きたかったんだけど、トガってさぁ、クルマを手放すときに、なんとなく寂しくなったりすることなんてまったく無いの?

トガ そりゃ、あるに決まってるだろ。確かにあまり乗れなかったけど、片道1時間のゴルフの帰り道でも、570Sに乗るだけで疲れが吹っ飛ぶし、夜に近所を30分流すだけで、嫌なことを忘れられる。ってこれはバッテリーを充電する目的もあったけどな(笑)。

570Sは、俺にとってのカンフル剤のような1台だった。あんなに元気をもらったクルマは本当に他にない。若山社長に売ってくれって言われなかったら、いまだに乗っているかも知れない。それぐらい良いクルマだった。

でも、それ以上に俺は、次のクルマを探せることに喜びを感じるんだよ。飽きっぽいのは否めないけど、「愛車を売って欲しい」って言われるのも、俺にとっては最高の誉め言葉だと思っている。

570Sもそう。俺が一度も雨に濡らさず、に大事に乗ってきたことを知っている若山社長が、「どうしても売って欲しい」って言ってくれるんだから、こんなにうれしいことは無かった。その言葉を言ってもらえれば、俺は次のゲームに向かえるんだ。

次の愛車は何にしようかなぁ、って考えられるのは最高に贅沢で愉しい時間だからね。あの時間がまたやってくることを考えるだけで、たまらない気持ちになる (笑)。

でも、やっぱりマクラーレンの走りの良さ、最高の実用性は、ほかのメーカーのクルマでは味わえない特別なものなんだよなぁ。

だから今でも限定車のマクラーレン600LT、765LTは欲しいと思っている。欲しいクルマがありすぎて、マジで困っているというのが現状だね(笑)。

スガ 前から知ってたことではあるんだけど、どんな状況でも新たな1台が欲しくなるトガは、間違いなくクルマ中毒者です(笑)。

だから愛車遍歴決定版! は続いていくんだけどね。さて、マクラーレン570Sに続く次回の愛車遍歴。どんなクルマが登場するのでしょうか?

 

トガ 次回はセカンドカー・シリーズに戻って、SUV系にいってみたいと思います。

 


マクラーレン570Sクーペ

 ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4530×2095×1202mm
 ホイールベース:2670mm
 車重:1313kg
 駆動方式:MR
 エンジン:3.8リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
 トランスミッション:7AT
 最高出力:570ps(419kW)/7400rpm
 最大トルク:61.2kgm(600Nm)/5000-6500rpm
 価格:¥25,560,000 *2019年当時

文・菅原 晃