トガナリ

Column

25/6/1

「久しぶりに速いクルマに乗ってみようかな。と考えて、911カレラを手に入れました!」現在進行形で進む 戸賀敬城の愛車遍歴決定版!

戸賀編集長2台目となるポルシェ911は、996のカレラ。ボディカラーは白で内装は黒。※写真はカレラ4S

数々のクルマを乗り継いできたことから、業界でもかなりの“クルマ通”として知られる戸賀敬城。彼が選んぶクルマが持つそれぞれの魅力、さらには、そこから読み取ることが出来るクルマ選びの基準を、本人の口から語ってもらうのがこの『愛車遍歴決定版!』。話の聞き手は、戸賀(トガ)のCar Ex編集部時代の同期であり、フリーランスエディターの菅原(スガ)。編集部時代は、仕事も遊びもほとんど一緒に過ごしていたという「トガ&スガ」ならではの、懐かしい昔のこぼれ話もお楽しみください!

スガ 今回の愛車遍歴決定版も、毎回恒例となってきた前回の振り返りから始めさせていただきます。

時代は2000年代に突入、大人のファッション誌の編集長となったトガは、メルセデスのラグジュアリーモデルをわずか2年半の間に3台も乗り継ぐという迷走を開始。

1台目のSL500は、まさかの上司のクルマとボディカラーまで丸被りということが判明し、半年でサヨウナラ。2台目に選んだCL500は、忖度&妥協だらけのクルマ選びが何よりもカッコ悪いことを銀座のお姉さんに教えられ、開眼したトガは、わずか2か月でCL500も手離すことに。

そして3台目にCLS500を所有することになるワケだが、「本当に美しい4ドア・ハードトップだったこと」、そして「2ドアクーペにさえ見えてしまう流麗なフォルム」、さらに「セパレートした贅沢な2座仕様のリアシート」などが醸し出す、「それまでのメルセデスに足りなかった色気を感じさせてくれた」ことから、トガがひとめ惚れ。

しかし当時のCLS500に対する、モータージャーナリスト達の評価は最悪。そんな評価をトガは気にすることもなく、自分の感性だけを信じてクルマに乗り続けていたら、徐々にCLSの人気に火が付き、結果、世界的に大人気のモデルに成長。

残念なことにここからトガは、変にクルマ選びに自信を持ち始めてしまい、現在に至る……、とまぁ、こんな感じで間違いない?

トガ 最後の部分はちょっと気に入らないけど、今回はあまり悪意を感じない(笑)。概ね、そんな感じで良いと思います。

スガ 毎回毒を吐いていると、トガのファンに嫌われそうだから今回は軽くしておいた (笑)。さて、冗談はさておき、CLS500の後のクルマってことになるんだけど、確かポルシェに戻るんだよな?

トガ そう、スガのくせに良く覚えているじゃん(笑)。俺が所有したポルシェだけに関して言うと、944ターボからの964(911)カレラ4。968CSを挟んで、久しぶりのポルシェ911となる996のカレラに戻ったという感じかな。


ポルシェ好きで知られる戸賀編集長ですが、ポルシェ911の代名詞的なRRモデルを手にしたのは、この996が初めてでした。※写真は911カレラ4S


スガ まぁ、そろそろスポーツカーに乗りたくなる頃じゃないかな? とは思っていたけどね(笑)。それはそうと、なんでお気に入りのCLS500を手離すことにしたの?

トガ Eクラス(W124)、ゲレンデヴァーゲン、SL500、CL500、CLS500と乗り継いだだろう? ぶっちゃけると、メルセデスのクルマ作りの姿勢が好きになり過ぎた結果、メルセデスにのめり込み過ぎて疲れちゃったんだよ。まぁ、期間は短いけど、5台のメルセデスを乗り継いだワケだ。だからいったんメルセデスから離れようかな、と思った。

メルセデスは今でも大好きなブランドだから、嫌いになったワケではなくて、本当に疲れちゃったという感じだったんだよ。

スガ メルセデスに疲れちゃったって、なんか凄くムカつくんですけど(笑)。まぁ、それは置いておくとして、次に選んだ996なんだけど、トガ的にはどんなクルマだったの?

トガ ひと言で言うなら、正常進化していた911だったね。

 

空冷ポルシェと水冷ポルシェの違いとは?

スガ なるほどなぁ。トガは964で空冷の911にも乗っていたワケだけど、やっぱり空冷と水冷ではかなり違うもんなの?

トガ 乗ってすぐに感じたのは、確かにフラットシックスの音はするけど、空冷独特のバタバタした感じが無くなっていたことかな。凄く滑らかにエンジンが動いている感じなんだよ。エンジン音だけでも進化していることが分かった。


やはり空冷から水冷に変わったことで、クルマは確実に進化を果たした。しかし新しいものが受け入れられるのは難しく、996の評価は高くなかった。

スガ でもあの頃のモータージャーナリストとか、911ファンの水冷エンジンの評価って低かったよな。『バタバタしている唯一無二のエンジン音こそが911の証』、なんて考えている空冷911ファンには許せなかったんだろうね。

トガ そうなんだろうと俺も思う。でも、どうして乗ってもいないヤツが996を悪く言うんだろう? ってことも俺は考えていた。だって当時のクルマ雑誌には、『996は0-100km/h加速も最高速も、ニュルブルクリンクのラップタイムも、前モデルの993を凌駕している』という記事が載りまくっていたんだよ。

正常進化を果たしているニューモデルを、なんでそんなに低く評価するのかが俺には分からなかった。実際に乗れば996の良さは分かるハズなのに。

当時の俺としては、「正常進化を遂げた新しい911は本当に良いクルマだった」という認識しかなかった。もう他人の評価を気にする必要がないってことは、CLS500の時に分かっていたしね(笑)。

問題はフロントライトのデザインだった⁉

スガ 996と言えば、エンジンが空冷から水冷に変わったことと同じくらい物議を醸しだしたのが、エクステリアデザインだったよな? あのデザインはトガ的にはどうだったの?


写真上/996の前期型のフロントライト。ボクスターと共有していたこのフロントライトは、通称「涙目」と呼ばれていた。

写真下/後期型は、フロントライトをシャープなデザインに変更。戸賀編集長は、このデザイン変更で996を買う踏ん切りをつけたとか。


トガ あぁ、あのボクスターと共通のフロントライトな。ポルシェとしてはフロントライトとフォグランプを一体化したかっただろうけど、あれは余りにも衝撃的だった(笑)。

厳しく言っちゃうとまさしく過渡期だったんだろうね。ポルシェは、ちょっと近未来的なものを狙っちゃったのかなぁ。もうちょっとそれまでの911のデザインを継承していても良かったと思うんだけど、新しい911を創っていかなければならないって思い過ぎた感じかな。それがちょっと裏目に出ちゃったのが、あのフロントライトなんだと思う。

スガ そういえばトガの996って、あのフロントライトじゃなかったよな?

トガ スガ、じつは俺もあのフロントライトのデザインが納得できなかった一人なんだよ(笑)。だから、俺が買ったのはフロントライトがシャープなデザインに変わった、996の後期型。ちなみにボディカラーはホワイトで内装は黒、当然左ハンドルでマニュアルを選びました。

 

気になる水冷ポルシェ911の走りとは?

スガ ネットで調べてみると、996の前期型は300psの3.4リットル・4バルブ水冷フラット6を積んでいたんだね。で、トガが買った後期型は3.6リットルに拡大されてパワーも320psにアップ。それを6速マニュアルで操るってことになるんだけど、インプレッションはどんな感じだったの?


リアエンジン、リアドライブの911を軽快に走らせるためには、常にリアへの荷重を意識して走らなければならない。


トガ やっぱりRRだから、常にリアへの荷重を意識して走らなければならない。だからシビアと言っちゃシビアだったよ。アクセル操作がラフ過ぎると、クルマの挙動があっという間に変わってしまうしね。

でも20代の頃に964のカレラ4や、FRの968CSに乗りながら、それなりにスポーツドライビングを経験してきたことで、微妙なペダルワークやスムーズなステアリング操作が身についていたからなのか、初めてのRRの911の操作にも意外と早く馴染むことができた。

俺は今でも、「当時の911ならカレラ(RR)、それもマニュアルが一番バランスの取れたスポーツカーだったと思っている。だから996のカレラを所有するならマニュアル一択だった。自分の手と足を使ってクルマを操る、マニュアルならではの魅力は他に変えられるものが無いんだよ。ターボやGT3などのハイパワーなモデルなら、さすがの俺もPDKをチョイスするけどね(笑)。

だからこの996のカレラ(RR)、320psをマニュアルで走らせたのは、楽しかった思い出しかない。本当に、良いクルマだったという記憶しかないんだよね。

GT3、ターボという選択はなかったのか?

スガ トガの話しを聞いていてふと思ったんだけど、996にもターボとかGT3もあったワケだろ? そっちの方には走らず、あえて“素”の911にしたのはなんで?

トガ そりゃ、ぶちゃけると金額的な面を含めても、一番バランスが取れているのがカレラだったってことだね。ターボは予算的に厳しかったし、GT3は一見さんお断りのモデルだから買いたくても買えなかったという理由もあるけどね。他にも目を向ければ、カブリオレなんかもあるけど、まったく興味が無かった。でもタルガは昔から好きなモデルだったので、タルガは最初に候補に挙げた。でも996のタルガは電動式ガラスルーフを採用していて、トップが後方にスライドするタイプだったのでカッコ良くないんだよ。だからベーシックなクーペに決めたって感じかな。


996のタルガは電動式ガラスルーフを採用。しかしこのガラスルーフ、戸賀編集長には響かなかったようです。


996に不満点は無かったのか?

スガ ここまで聞いてきたけど、意外に996に対する不満点は無さそうだね? かなり気に入っていたってこと?

トガ そりゃ気に入っていたことは間違いない。でも不満な点も当然ある。まず第一に、内装のところどころにコストダウンを感じてしまうこと。これは当時のメルセデスもそうだったように、時代的に致し方無いことなんだろうけど、やっぱり残念だった。

そして第二は、キャディバッグを積むのにひと苦労することかな。

スガ 911にキャディバッグなんか積めるの?

トガ 積めるんだよ。助手席のシートバッグを前に倒すと、フラットなスペースができるだろ? そうすると後席に荷物を入れやすくなる。そこにキャディバッグを入れるんだよ。でもサイズ的にはギリギリだから、キャディバッグの底や金具でどうしても内装を傷つけちゃう。内装に傷がつく、それがどれだけ悲しいことなのか、スガに分かるか?

スガ 分からん(笑)。というか、ポルシェでゴルフに行くこと自体に無理がある (笑)。

トガ ポルシェしかクルマが無いんだから仕方ないだろ(笑)。さらに不満があった。超不人気車だったが故に、下取り価格が壊滅的だった。どんなに進化した911でも、水冷の911に対する日本の、いや世界的な評価が厳しかったんだろうね。正当な評価を受けていないという事実は、分かっていてもかなり悲しかった思い出がある。

でもなスガ、さっきのゴルフの話しで思い出したことがある。ポルシェの内装が傷付くことあまりに悲しくて、ゴルフ用にもう1台、“足”グルマを買ったんだよ。そのクルマの話しを次の回にしよう!

スガ また2台持ちに挑戦したの? お前も懲りないねぇ(笑)。

次回は、その“足”グルマの話しを聞かせてもらいましょう!

ポルシェ911カレラ(996後期型)

 全長×全幅×全高:4430mm×1770mm×1305mm
 ホイールベース:2350mm
 車両重量:1420kg
 エンジン:水冷水平対向6気筒DOHC24バルブ 3595cc
 最高出力:320ps/6800rpm
 最大トルク:37.7kg-m/4250rpm
 トランスミッション:7速AT

文・菅原 晃