
トガ編集長が乗るには、ちょっと地味目な小型車ではありますが、これが予想を覆す名車なのだった
スガ トガ、もう一度確認させてくれ。前回の愛車遍歴で紹介したのが、ゲレンデのG400D エディション マグノホワイト。今回のクルマは、このクルマより以前に所有していた1台ということで間違いないんだよな?
トガ 間違いない。なぜか話している最中に、当時の記憶が蘇ってきちゃったんだよね。本当に申し訳ない。
スガ まぁ、さすがにファーストカーの『マクラーレン570S』、セカンドカーの『ベントレー ベンテイガ』に続く第3のクルマという位置付けなら、あまり記憶に残らないのも仕方がないような気がしないでもない(笑)。
マクラーレンやベントレーを超える名車
トガ いつになく、スガがやさしくて気持ちが悪い(笑)。
でもなスガ、じつは後から思い出したこのクルマこそ、俺が独立してから乗ってきたクルマの中でもトップクラスの1台、いや『名車』と言っても過言ではないくらい素晴らしいクルマなんだよ。
スガ おいおい、さすがにそんな名車の存在を忘れちゃまずいだろ(笑)。だけど、まずは話しを先に進めよう!
独立してから乗ってきたクルマってことになると、トガ的にはマクラーレン570Sや、ベントレー ベンテイガよりも上の評価になるってこと?
トガ そうなるね。
スガ マジで? そんな良いクルマだったの? だって3台目のクルマなんだから、当然お値段も控えめなワケだろ? そんなに良いクルマなら、間違いなく教えて欲しい人も多いはずだよ。トガさん、教えてください。そのクルマとは一体?



そのサイズとデザインは、日本国内で見ると軽自動車に近い!?
トガ 確かあの当時は、ベントレーをコインパーキングに入れるたびにホイールを擦りそうで冷や冷やしていた記憶がある。だから、ちょっと贅沢ではあるけど日常使いができる、運転が楽な小型車を所有するのもありかな? と考えたんだよ。仕事も順調だったしね。
実際にクルマを探し始めてみたんだけど、その頃はまだネオ・クラシックというカテゴリーには興味がなかったし、MINIのジョンクーパーワークスのアンバサダーの話しも無かった時だから、純粋に「日常の足代わりでありながらも、こだわりが感じられる小型車」を探すことになったんだ。
GTiという存在をあらためて認識する
スガ こだわりが感じられる小型車ということになると、当然、Up! GTiの他にも比較検討したクルマがあったんだろ?
トガ あった。当時の俺が小型車の購入を考えると、最初に頭に浮かんでくるのは『アバルト』だった。
このクルマ、乗るだけで楽しくて疲れも吹っ飛んじゃうくらいに最高のおもちゃだったんだけど、いかんせん乗り心地が悪かった(笑)。
高速に乗ってゴルフに行くことが多い俺にとっては、乗り心地が悪いのは大きなマイナスポイントなんだよ。だからその時の購入は見送ったんだよね。
スガ 腰にも悪そうだしね。
トガ そして次に考えたのが、戸賀といえばの『スマート』だった。ブラバスあたりの限定車を買うことを前提に検討したんだけど、ブラバスが生産中止を発表したことで、タマ数が一気に少なくなってしまった。当然、値段も上がってくるから出物がまったく無い状態だったんだよ。
まぁ、スマートはツーシーターだから、キャディバッグを載せると、ひとりしか乗れないというのも問題だったんだけどね。その辺りも鑑みて、こちらもやっぱり却下となった。
そこで、あらためて「何かほかに良いクルマは無いものか?」と考えていたら、ゴルフのGTiが頭に浮かんできた。
スガ お、ついにフォルクスワーゲンのゴルフが出てきた!
トガ 愛車遍歴のシリーズを見てもらえば分かる通り、じつは俺って一回もゴルフを所有してないんだよね。
俺のクルマの師匠でもある徳大寺さんは、初代のゴルフGTiを評価したことをひとつのきっかけに世界一のモータージャーナリストになる訳だけど、あの巨匠が大好きだったクルマなのに、俺はそのゴルフに乗ることがないまま、今に至っていることに気が付いてしまった。
今までもセカンドカーや3台目クルマの購入を考える時って、必ずゴルフは候補に挙がっていたんだよ。でもなぜか購入には至っていなかった。
スガ ゴルフを購入してこなかったのには、何か特別な理由はあったの?
トガ その時々で理由は変わるんだけど、この時に限って言えば、俺が想う小型車としては、ちょっとサイズがデカかったってことかな。まぁ、ゴルフだから小さいことは小さいんだけどね。
さらに小型車という割には意外と値段が高かった。本音ベースで言うと、そこに躊躇してしまった部分もある。
そこでさらに考えた。ならば、その下の車格であるポロならどうかな? と。
スガ ポロか! 確かにその選択肢はあるよな。
トガ そうだろ? でもな、スガ。調べてみたら、ポロのGTiでも、新車で400万を超えていたんだよ。
スガ マジ? 今のポロってそんなに高いの?
トガ そうなんだよ。だから当然、こちらも予算オーバー。でも正直な話し、ポロはさすがに400万円のクルマではないと思ってしまったっていうのもあるんだけどね(笑)。
ならば、GTiじゃないグレードのゴルフやポロはどうかな? と一瞬考えたんだけど、そうなるとオートマで非力なクルマしか無いんだよ。これどう考えても俺の性格上、すぐに飽きる感じがするよな?
スガ 間違いなく飽きると思う (笑)。だったら、もうちょっと元気のある他の輸入車は考えなかったの?
トガ 考えた。だから最初にMINIクーパーを検討したけど、こちらはさすがに小さな高級車。予算的にオーバーだったから諦めた。
次にBMWの1シリーズに注目した。FFのBMWには乗りたくなかったから、FR時代の旧い135を探したんだけど、こちらは走行距離が1万キロを超えているクルマばかりだったんだよ。
だから中古車嫌いの俺からすると、まったく論外だった(笑)。
ちなみにこの時、国産のマツダロードスターも考えたんだよ。だから実際にロードスターを所有しているオーナー達に取材してみたんだけど、「キャディバッグを載せるにはドライバーを抜かなければならない」って聞かされたんだよね。
これじゃまったくゴルフには使えない。だからこちらも早々に諦めた記憶がある(笑)。
数々の小型車を吟味し、ついに名車を発見!
スガ だったらルノーのメガーヌとか、他の欧州車に目は向かなかったの?
トガ それな。そこは俺の了見の狭いところなんだけど、やっぱりドイツ車以外は、気分が盛り上がらないんだよね(笑)。
他にアウディのA1も見たんだけど、こちらも予算オーバーだった。メルセデスのAクラスも見たんだけど、こちらはどこからも、俺をワクワクさせてくれるような魅力を見い出すことができなかった。
スガ けっこう真面目にクルマ選びをしていたんだな。
トガ 当たり前だろ(笑)。 3台目のクルマではあるけど、俺の中では毎日乗ることになる実質セカンドカーを選んでいるワケだから手は抜けない。
で、かなり頭の中が煮詰まってきた時に、フォルクスワーゲンのUp!に、まさかのGTiがあることに気が付いた。しかも価格は200万円ちょい。考えてみたら、最初から我が家の予算をクリアしているクルマを初めて発見したんだよ。
スガ 確かにUp!は、けっこう見落としがちかもね。
トガ この優等生を発見したときは、本当に感動のひと言だった。強いて言えば、右ハンドルのマニュアルというのは気になったけど、ゴルフもポロも右ハンドルしかなかったから、まぁ、これは仕方がないと納得。納得したところで、購入を一気に進めたんだよ。


戸賀編集長から、「小気味よくスパッスパと入るシフト」という高評価を受けたUp!の操作系
硬いのにしなやかな最高の乗り心地
トガ 実際に納車されたのは、ボディが白、シートはチェック柄というモデルだった。
必要最小限の装備しかなくて、エンジンは1リッターの3気筒でターボ付き。これが鬼っ速というのではない、スカッとする気持ちの良い速さを体感させてくれるエンジンだった。特急ではなく快速って感じ?(笑)
スガ なんとなく分かる気がする例えだな(笑)。
トガ ただGRヤリスの3気筒と比べると、若干プアーな感じはあったかもしれない。でも、これも大した問題では無かったかな。そのプアーな感じを補って余りある魅力がUp! GTiにはあったんだよ。それがGTiならではの、硬いんだけどしなやか乗り心地だった。
アバルトは、その辺をしっかりフォルクスワーゲンから学んだ方が良いかも知れないと俺は思う(笑)。
スガ 分かる気がする(笑)。
トガ シフトも小気味よくスパッスパ入るし、クラッチも全然重くない。坂道発進のときはオートホールド機能が設定されていたからメチャクチャ便利だったし、ちょっと硬めのシートは、腰痛持ちの俺には最高の座り心地だった。
視界も最高だし、車庫入れは一発、燃費も最高だった。俺の感覚でしかないけど、真面目に燃費走行したら20キロは超えられるような気がした。ちなみに最後まで計測はしなかったけど(笑)。
スガ 一回くらい検証しなさい(笑)。
トガ もう、どこにも文句のつけようがないくらい最高のクルマだったね。リアシートを倒せば、3本のキャディバッグを載せることも可能だったのも素晴らしかった!

トランクだけでなくリアシートを倒すことによって、3本のキャディバッグを載せることも可能だった
スガ ちょっと聞きたいんだけど、リアシート倒したら二人しか乗れないのに、何故キャディバッグを3本も載せるんだい?
トガ あのなスガ、我が家には我が家の事情がある訳だ。家にキャディバッグを置いておくと妻に怒られるんだよ(笑)。 だから当時は、ベンテイガとUp! GTiの中には、使わないキャディバッグとクラブがいつも数セット入っていた。
その時に、ちょっと試してみたら、Up! GTiには3本のキャディバッグが余裕で入ることが分かったというわけ(笑)。 そう考えてみると、Up! GTiは、ゴルファーズ・セカンドカーとしても最高のクルマだったんだよな。
スガ トガにしては珍しく、今回もべた褒めだな。
トガ いや、本当に最高のクルマだったんだよ。徳大寺さんがお気に入りだったゴルフIのGTiとほとんど同じボディサイズで、スペックも似ている。
言ってしまえば、Up! GTiは、現代のゴルフI GTiといって過言ではないクルマなワケだ。だから、俺が初めてのGTiにUp!を選んだことを、徳大寺さんもきっと喜んでくれていると思うんだよね。
でもなスガ、Up! GTiにもひとつだけ、どうにも残念なところがあったんだよ。
スガ おっ、べた褒めだったUp! GTiにも、ついに欠点が!?
名車なのに注目されない悲しい1台
トガ じつはこのUp!、機能を簡略化し過ぎたからなのか、昔のクルマみたいに給油口の中のキャップに鍵が付いてるんだよ。だからガソリンスタンドに行くたびにエンジンを切って、鍵を抜き、その鍵でキャップを開けて給油しなければならない。
給油中は当然のことながら、ずっとクルマの横に立って給油が終わるのを待っていなければいけなかった。真夏は車内があっという間に暑くなるから、これがマジで最悪だったワケだ(笑)。
スガ 残念なポイントって、そんなことかい!(笑)
トガ まぁ、これは冗談だけど、本当に残念だったのは、女性にも男性にもまったく見てもらえなかったってことなんだよ。
俺は、コーディネートした洋服を着ているときは、多くの人に見られたいと思うタイプなんだけど、じつはクルマに乗っている時は、あまり見られたくないタイプ。でも、Up! GTiに乗っていると、本当に誰も見てくれないんだよ。100回に1回くらい、カメラバッグを斜め掛けしているおじさんに写真を撮られることがあったけど、それ以外はまったく見られることが無い(笑)。
エンジン音も、あまりにも欲がない普通の音だったから、まったく目立たなかったんだろうね。見られ無さ過ぎるっていうのも、また寂しいもんなんだよ(笑)。だからその点だけは、音だけでも注目を浴びてしまうアバルトに学んでみるのも有りなのかもな(笑)。
スガ 確かにアバルトのエンジン音は別格だしね(笑)。
トガ さらに日本にはイケてる軽自動車が多いから、Up! GTiのサイズだと、軽自動車の中に埋もれてしまったっていうのもあるかな。
良いクルマなのにまったく見てもらえないっていうのは、なんとも悲しかったんだよね。
スガ 名車であるにも関わらず、まったく誰にも気が付いてもらえない。
小型車なのに、さらに下の車格の軽自動車に埋もれてしまう。そりゃ確かに悲し過ぎるな。
トガ だよな。でも、はじめてフォルクスワーゲンのGTiを所有したおかげで気付けたこともあるんだよ。
それは『GTi』っていうのは、フォルクスワーゲンのゴルフやポロ、Up!などの1モデルではなく、車格を超えた『GTi』という特別な存在ってこと。車格を超えて共通する絶妙な乗り心地は、まさにGTiにしかない世界観。
そんな世界観を持っているGTiだからこそ、俺も『名車』と感じることが出来たのかも知れないね。
スガ でも残念ながら、そんな名車でも別れの時はくる訳だよね。ちなみに今回は、どんな感じだったの?
トガ 今回も「このクルマが欲しい」という、後輩のドクターが現れたんだよ。だから譲ることにしたって感じ。欲しいと言ってくれる人がいる時が、売り時だからね。
でも当時は、「何で売っちゃたかなぁ」と、珍しく後悔した自分もいたんだよ。本当に良いクルマだったからね。だから今も気になって中古市場はチェックしていることは、いつものように秘密(笑)。
Up! GTiと、その前に所有したメルセデスのE220dの2台は、セカンドカー、3台目のクルマだったにも関わらず、俺の愛車遍歴に名を刻む『名車』だと思っているよ。これは間違いなく断言できる。スガにもこの2台はぜひとも体感して欲しいんだよなぁ。俺が今チェックしているおススメを紹介しようか? 何台かはすぐにピックアップできますよ!(笑)
スガ ちょっとトガの話し方が営業マンチックになってきたので、とっとと逃げたいと思います!(笑)
次回は通常に戻って、ゲレンデのG400D エディション マグノホワイトに続く、SUVのセカンドカーの登場です!

フォルクスワーゲン Up! GTi
全長×全幅×全高: 3265mm×1650mm×1485mm文・菅原 晃