トガナリ

Column

25/7/26

vol.17 今回はちょっとイレギュラーな展開。じつはBMWのZ8に乗っていた記憶が蘇ってしまったのです

Z8に乗る20年ほど前? の戸賀編集長。 Photo/望月浩彦

数々のクルマを乗り継いできたことから、業界でもかなりの“クルマ通”として知られる戸賀敬城。彼が選ぶクルマが持つそれぞれの魅力、さらには、そこから読み取ることが出来るクルマ選びの基準を、本人の口から語ってもらうのがこの『愛車遍歴決定版!』。話の聞き手は、戸賀(トガ)のCar Ex編集部時代の同期であり、フリーランスエディターの菅原(スガ)。編集部時代は、仕事も遊びもほとんど一緒に過ごしていたという「トガ&スガ」ならではの、懐かしい昔のこぼれ話もお楽しみください!

愛車遍歴決定版! で今までの愛車のことを語っているうちに、昔の記憶が蘇ってきた戸賀編集長。雑誌『メンズEX』の編集長をやっていた頃に、BMWのZ8を所有していたことを突然思い出してしまいました!
ということで今回は、少々イレギュラーではありますが、少し過去に戻ってBMW Z8のことについて語っていただきます!

 



「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」にもボンドカーとして登場したZ8


 

トガ スガ、悪い悪い。すっかりZ8のことを忘れてた(笑)。あのクルマは、『メンズEX』の編集長をやっていた頃、確か編集長生活の中でも、かなり後期に乗っていたクルマなんだよ。
ちょっとバタバタしていた時期でもあるから記憶から抜けていたのかなぁ。知り合いが、九州でZ8を所有している人を紹介してくれて、購入できることになった1台なんだけどね。
それも2年間まったく動かしてないから、走行距離はもかなり短いという話しだった。だから中古車嫌いの俺でも触手が伸びたんだよ。

スガ 今回は、Z8の存在を思い出しただけでも良しとします。以後、気をつけるように(笑)。
ちなみに2年間動かしていないってことは、何かクルマに問題があったの?

トガ いや、クルマにまったく問題は無かった。そして保管場所は屋内という好条件だった。
映画の「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」に登場するボンドカーだったんだけど、スタイリングが本当にカッコ良かったからほぼ即決だった。

スガ あ、その映画知っているぞ。確かZ8が、巨大な丸ノコで真っ二つにされちゃうヤツだよな!

トガ うるさいよ(笑)。スガ、お前そういうことはよく覚えているよな。話しを戻すぞ。
当時の俺は、Z8が手に入るうれしさでZ8の評価を、雑誌などで、あらためて確かめてみたんだよ。そうしたら思いのほか評判が良くなかった(笑)。
BMWなのにアメ車みたいな乗り心地とか、BMWといえばシルキーエンジンが売りなのに、Z8のエンジンは、ドロドロとアメ車みたいな音がするとかね。
でもこのエンジン自体は、俺が後に乗ることになるレンジローバーの4.9リッターV8エンジンをベースとして、Mがチューニングしているから最高の仕上がりだった。
だけど、高回転型というよりはトルクの塊みたいな味付けのエンジンで、良くも悪くもBMWらしくなかったんだよ。

スガ BMWというより、まんまアメ車だね。

トガ トルクフルなV8という点ではそうかも知れない。でも、なぜかこのクルマ、左ハンドルのマニュアル車しか設定がなかったんだよ。大排気量でトルクの塊なのに、オートマがない。
マニュアルだから慎重にクラッチを繋がないと瞬間的にドカンっと前に出る。2速、3速でも一緒。気を付けて繋がないと、またドンっと出る。ずっとホイルスピンができるような、まさにトルクの塊というクルマだった。
でも、そんなクルマだったからこそ、俺が手に入れるチャンスも回ってきたんだよ。

 

 

走行距離300㎞の極上品が手に入った理由

 

スガ それはどういう意味?

トガ じつは前のオーナーは高齢の方だったんだよ。どうやら007を観ていたら、登場してきたZ8があまりにカッコ良くてあまり調べもせずに買ってしまったらしいんだよ(笑)。

スガ トガと一緒じゃん(笑)。

トガ うるさいな(笑)。でも、家族の反対を押し切って買ってはみたものの、いかんせん、Z8はトルクの塊だったので、危なくて乗れそうもない。

スガ 家族としても、危なくて乗せられないよな。

トガ そうだよな。だからそのまま2年間ガレージで眠らせてしまって、走行距離300㎞のまま、俺の下にくることになった訳だ(笑)。
九州からはトランポで運んでもらったんだけど、東京に着いて確認したら、走行300キロとはいえ、ハードトップとボディの隙間のパッキンが溶けてくっついているような小さなトラブルはあった。
さすがに屋内保管だから、シルバーのボディや赤の内装はきれいだったけど、とりあえずハイランダー(磨き屋さん)に持ち込んで、ハードトップを外してパッキンを取り除き、磨き上げてから乗り始めた記憶があるよ。

スガ まぁ、2年間寝かせていたらそうなるよな。ちなみにその車、いくらで購入したの?

トガ 当時の下取り価格とだけ言っておこう(笑)。1年半くらい所有していたんだけど、その間にZ8の値段がヤバいことになっていた気がする(笑)。
でも転売を狙って買ったわけじゃないからな。気が付いたら勝手に評価が上がっていたんだよ!

スガ それ、本当?(笑)

 





「佇まいも、エンジンも、インテリアも、照明も最高の1台」とは、戸賀編集長のZ8に対する評価。オートマが用意されていなかったのが、唯一で最大の残念ポイントだったらしい


 

Z8に関する戸賀の結論

 

トガ Z8は、ワンオフのモデルだったから、一部のスイッチ類以外は、すべてZ8のために作られたという、本当にスペシャルなクルマだった。
でも当時の自動車雑誌などの評判は今ひとつ。本当は良い車なのに、見た目が良いだけの車というイメージが先行しちゃったのは残念だったよね。
ちょうど俺も、『メンズEX』の編集長に就任して3年目だったから、サラリーマンとはいえ、脂がのり始めた頃だった。
でもクラシコイタリアの編集長をやっていながら、ドルチェ&ガッバーナで全身を固めているようなダメ編集長だったから、初めて人に見られることを意識して購入した車がZ8だったというのは合点がいく(笑)。

スガ ほかに、Z8ならではの思い出ってないの?

トガ う~ん、本当に所有していた喜び以外は思い当たらないんだよね。
でも、『佇まいも、エンジンも、インテリアも、照明も最高の1台なのに、なぜマニュアルしか作らなかったのかなぁ』と良く考えていた思い出ならあるけどな(笑)。
間違いなくオートマがあったら最強のクルマだったと思うよ。オートマなら今でも欲しいくらい。
あ、思い出とは違うけど、Z8はマニュアルのスポーツカー好きな俺に、大切な教訓を与えてくれたクルマでもあることを、今思い出した!

スガ お、どんな教訓?

トガ そりゃ、もちろん「危ないから、大排気量のマニュアル車には乗るな」ってことです(笑)。

BMW Z8

 全長×全幅×全高:4440mm×1830mm×1315mm
 ホイールベース:2505mm
 駆動方式:FR
 車両重量:1610kg
 最高出力:294 kW (400 ps)/6600 rpm
 最大トルク:500 N・m (51.0 Kg・m)/3800 rpm
 種類:V型8気筒DOHC32バルブ
 総排気量:4941cc
 価格:¥16,600,000(税込み)※2003年当時

文・菅原 晃