トガナリ

Column

25/6/21

vol.13 人生初となるイタリア車は、 徳大寺先生から譲ってもらった、フィアット・プントだった!

イタリアの風景によく馴染むフィアット・プントは、意外と日本の街にも馴染んでいたと話す人も多い

数々のクルマを乗り継いできたことから、業界でもかなりの“クルマ通”として知られる戸賀敬城。彼が選んぶクルマが持つそれぞれの魅力、さらには、そこから読み取ることが出来るクルマ選びの基準を、本人の口から語ってもらうのがこの『愛車遍歴決定版!』。話の聞き手は、戸賀(トガ)のCar Ex編集部時代の同期であり、フリーランスエディターの菅原(スガ)。編集部時代は、仕事も遊びもほとんど一緒に過ごしていたという「トガ&スガ」ならではの、懐かしい昔のこぼれ話もお楽しみください!

トガが、イタ車に乗っているという噂が流れてきた

 

スガ 今回も毎回恒例となっている、前回の振り返りからスタートするぞ!
前回は、「往年の名車W124のE500と同じE500というモデル名に魅かれて、クライスラーと合併した直後のモデル、W211のE500ステーションワゴンの購入を“即決め”しちゃう戸賀敬城」。
案の定、このW211のE500は、W124のE500とは全くの別モノ。「ステアリング、トランスミッション、ブレーキなどの剛性も低く、W124のようなオーラがまったく感じられなかったことから、またもやトガは、W211のE500を世界的に半年で手離すという失敗をやらかす」。
この失敗から、次回こそ妥協のないクルマ選びをすることを決めていたトガは、「熟考に熟考を重ね、人生初となるAMG、それも二度目のCLSとなるCLS55をチョイス。さらに、当時の大人気のカラーだったパールホワイトの個体の購入を決意」。
なんと、このクルマ選びが大成功! CLS55は、「AMGとはメルセデスの格上であり、別格な存在である」ことを教えてくれただけではなく、「妥協のないクルマ選びをしていれば、本当乗りたいクルマに巡り合うことができる」ことを、あらためて教えてくれた、最高の1台となったのであった、……みたいな感じで良いんだよな?

 

トガ まぁ、そんな感じだけど、今回はけっこう悪意を感じるな(笑)。でも30代半ばの俺って、『MEN`S EX』と『メルセデス マガジン』の編集長を兼任していたこともあって、めちゃくちゃに忙しかったんだよ。
だからクルマ選びに関しても、知らず知らずのうちに少し手を抜いてしまっていた部分があったことは否めない。でもさぁ、クルマのことを良く調べずに“即決め”するなんて、今の俺だったら考えられないことだよ。

スガ いや、心身ともに疲弊していたとしても、それをやっちゃったのは20年ちょっと前のトガだから(笑)。
で、今回は最高の1台だったAMG CLS55を手離した、その後の話しを聞かせて欲しいと考えているんだよね。確かその頃って、トガとあまり一緒に仕事をしなくなっていた頃なんだよ。
でもある日、トガがイタリア車の大衆車に乗っているという噂が流れてきた。トガがイタ車? あの時は、マジでびっくりした記憶がある。その辺りの話しを聞きてみたいかな。

トガ イタリア車に乗っていたのは本当。乗っていたのは、グリーンメタのフィアット・プントだった。まぁ、大衆車だよな。でもなスガ、このプント、ただのフィアット・プントじゃないんだよ。今は亡き徳大寺有恒先生が所有していた、由緒正しき1台だったんだよね。

 

 

フィアット・プントは、徳大寺先生のお下がりだった!

 

スガ あ~、確かにあの頃って、トガが徳大寺さんに可愛がられているっていう話しは、いろんなところで聞いていたよ。でも徳大寺さんのクルマを譲ってもらうって、かなり凄いことだよな。どういった経緯でクルマを譲ってもらえることになったの?

トガ MEN`S EXの連載をお願いしていたから、打ち合わせや撮影などでしょっちゅう徳大寺さんとは会っていた。当時は、本当に懇意にさせて頂いていたんだよ。
で、CLS55を手離した時に次に乗りたいクルマがなかなか見つからなかったから、『“繋ぎ”のクルマとして何か売ってください』って、徳大寺さんにお願いしてみたんだよね。

スガ お前のそういうところは、素直に尊敬する。相手は徳大寺有恒御大だろ? 俺には絶対に真似できない。間違いなくオヤジキラー (笑)。

トガ あのな、オヤジキラーではない(笑)。でも当時は、クルマに関する為になる話しを、徳大寺さんに、たくさん聞かせてもらっていたんだよ。だから現在の俺が考えるクルマ選び、クルマ哲学みたいなものは、徳大寺さんの影響がかなりあると思うよ。
で、当時に話しに戻すと、あの頃の徳大寺さんはゴールドカラーのMINI ONEとグリーンメタのフィアット・プントを所有していたんだよ。この2台なら、どちらを譲ってもらっても“繋ぎ”のクルマとしては、丁度良い感じだと思わない?

スガ 確かに足グルマとしても丁度良いね。価格もそこまで高くないし。でもその2台、トガならBMW MINIを選ぶんじゃないの?

トガ そうなんだよ、俺はMINIの方が欲しかった(笑)。MINIには撮影で何度も乗っていたから、その良さは十分に分かっていたしね。軽くMINIについて話すとすると、まずボディ剛性が高かったことが挙げられる。クーパーじゃない、普通のONEでも十分に走っていて楽しかった。
さらにエクステリアもインテリアもけっこう個性的でお洒落なデザインだった。だから「これなら俺の“繋ぎ”のクルマにぴったりじゃないの?」と考えたワケだ。

スガ でも譲ってもらったのはプントなんだろ? なんで?

トガ じつはなスガ、徳大寺さんの奥様も、MINIを気に入っていたんだよ。それを「譲ってください」とはさすがに言えなかった(笑)。ちなみにプントは心良く譲っていただけたよ。もっと言うと、「戸賀ちゃんなら値段なんていくらでもいいよ。言い値で売ってあげるから」とまで言ってくださった。

スガ なんだ、仕方なくプントにしたのね(笑)。でも値段は言って欲しいよなぁ。

トガ 仕方なくプントにしたというのは大きな間違い。俺は徳大寺さんにクルマを譲ってもらえるなら、どのクルマでも嬉しかった。でも、値段は言って欲しかったっていうのはあるかなぁ。実際、言い値と言われてもなかなか価格を決められなかった記憶があるから (笑)。でも最終的に、かなりリーズナブルな価格で譲ってもらったとだけは言っておこう。

 

 

納車後、プントは真っ直ぐ修理に向かった(笑)

 

トガ そうそう、プントには、納車後すぐに修理に向かった想い出もある(笑)。

スガ さすがイタリア車だ(笑)。いきなり壊れたの?

トガ いや、メカニカルトラブルとかではなくて、Cピラーに埋め込まれている右側のテールランプが割れていただけなんだけどね。そのまま環八にあるクルマ屋に持ち込んで大至急で直してもらったんだけど、これってけっこうイタ車っぽいエピソードだと思わない?

スガ 人生初のイタリア車のオーナーになって、クルマを引き渡された途端に修理に向かう。確かにイタリア車オーナーになるための洗礼って感じがする(笑)。

トガ そんな洗礼はまったく要らないけどな(笑)。でも、修理が終わって、ようやく俺のクルマになったという気がしたよ。

 


エクステリアの各部が、エッジの立ったデザインになった二代目のフィアット・プント


 

人生初のイタリア車の印象とは?

 

スガ ところで、人生初となるイタリア車のプントは、どんなクルマだったの?

トガ まさしく、イタリア庶民の足として作られたクルマって感じだよね。俺が徳大寺さんから譲ってもらったのは、1999年にモデルチェンジした2代目。初代にくらべて、エクステリアのいろんな部分のエッジが立っていたのがデザイン的な特徴かな。
ボディカラーがグリーンメタというのはさっき言ったけど、内装はネイビーのファブリックだった。

スガ なるほどね。実際に乗ってみた印象は?

トガ マックスパワーで80psしかないんだけど、街中はもちろん、ゴルフ場までの往復の高速道路でも、パワー不足を感じたことはまったく無かった。そもそも車両重量が1060kgしか無いからね(※注:モデルや仕様によって異なります)。とにかく、すべてが軽くて気持ち良かった。ボディが小さいこと、ステアリングやスロットル、スイッチ類の操作がシンプルなことも含めて、まさにイタリアの大衆車って感じがしたよね。
でもCVTの出来はイマイチだった記憶がある。

スガ ラテン系のクルマにありがちなメカニカル的なトラブルは無かったの?

トガ これが驚いたことに無かったんだよ。だから本当に楽しかった記憶しかない。俺は、イタリアの服はシルエットが美しいし、着心地が軽くて優しいから大好きなんだけど、ことクルマに関しては、機械としての品質や耐久性は、まったく信用できないだろうなと決めつけていた。
だから、こんなにトラブル無く乗れるのなら、もっと早くイタ車を所有しても良かったかな、と思った記憶もある(笑)。

スガ トガは知らないかもしれないけど、その頃の俺はアルファロメオの145に乗っていたんだよ。145はほとんど壊れなかった。でもその前に乗っていた164は壊れまくり(笑)。たぶん2000年前後以降のイタ車は、機械としての品質も耐久性も上がってきたのかも知れないね。

 

 

プントは、乗る人を主役にしてくれる

 

スガ そういえば、プントに乗っているトガは、周りの人にどう思われていたのかな? 何か言われたことってなかった?

トガ 直接言われた記憶はないなぁ。でも俺にとって、「徳大寺さんのお下がりのプントに乗っている」ことは、誇りでもあり自慢でもあった。プントに乗りながら、「どうして徳大寺さんはこのクルマを選んだんだろう?」なんて考えてみるのも楽しかった。

スガ お、ならば聞こう! 徳大寺さんは、なぜプントを選んだとトガは思っているの?

トガ 俺が思うに、結局のところ、プントってイタリア人の“足”なんだよ。なんの気取りも気兼ねもなくスイッと乗れる足としてのクルマ。
それでいながら、ポロシャツにジーンズみいたいなカジュアルな格好から、ジャケット&パンツのお洒落なコーディネートまで、どんなスタイルでも絵になってしまうクルマでもある。そこがプントの魅力なんだと思う。
ちなみにスガは、まったく絵にならないけど(笑)。

スガ うるさい。

トガ クルマではなく、乗る人が主役になれるプントの良さを見抜いていたからこそ、徳大寺さんは、プントを日常の足としてチョイスしたんじゃないかな。

スガ 前々回のプジョー307スタイル、206スタイルの時にも思ったけど、クルマ好きなら一度はヨーロッパの大衆車、それもベースグレードに乗ってみるのも楽しいかも知れないね。
ところで、プントは繋ぎのクルマなんだよね? ということは、次は妥協の無いクルマ選びになるってこと? もしかして、次回のクルマはスポーツカー?

トガ まぁ、否定はしない(笑)。次回はそのクルマの話だな。

 

次回もお楽しみに!

フィアット・プント

 全長×全幅×全高:3835mm×1660mm×1480mm
 ホイールベース:2460mm
 車両重量:1060kg
 エンジン直列4気筒DOHC 16バルブ 1241cc
 最高出力:80ps(59kW)/5000rpm
 最大トルク: 11.6kg・m(114N・m)/4000rpm
 トランスミッション:CVT

文・菅原 晃