トガナリ

経年変化は劣化じゃなく、僕の働いた証

ベルルッティ「プチジュール」

恐らく僕にとって、この企画タイトル“愛着”という言葉がもっとも当てはまるのはスマートクラッチだと思うのです。これまで「スマートクラッチの考案者」として発信してきましたし、別注企画もいくつもやった。それらは一時的な話題づくりなんかではなく、本当に毎日使い続けてきたからこその結果。僕の愛用バッグを一挙紹介した『トガ本 The Bag』(学研)にも載っているから、愛用歴は少なく見積もっても17年以上になるんですね。いま使っているこの「プチジュール」をはじめ、様々な型を所有してきました。
原体験というか、はじめてのスマートクラッチがベルルッティ。ランチどきに、財布片手に外出するオフィス街の光景は今でも“あるある”なんじゃないかと。一方で、自分で言うもんじゃないですが『ワタクシ、ファッション誌の編集長ですよ?』と思っていたのです(笑)。あるあるに収まりたくなかったし、丸の内で働くビジネスマンの一歩二歩、前に行きたかった。そんな折、ベルルッティに出会ったのは必然だったのかもしれないと今になって思います。全面にスクリットが描かれたスマートクラッチは、ただの財布を超えた利便性と存在感があって「これ一つで様になるな」と一目惚れしました。

僕はクルマ移動が多いとはいえ、訪問や外出が少なくない。手消毒がすっかり習慣になった昨今、かなりコンスタントにウェットティッシュで清潔にしているせいか僕のスマートクラッチは色落ちが早い気がします(笑)。ただそれは、単に経年変化をしているということではなくて、キレイに使っている証拠。新品の輝きはもちろん美しいけれど、日々の移動や仕事の痕跡が刻まれていくからこそ唯一無二の表情になる訳で、消毒で削られているのも、僕が働き続けている証。重箱の隅をつついたところで出てくるのは「愛着」だけなのです。
愛用中のプチジュールに着けているチャームは、ここでも触れたのことのあるベルルッティの名作定番ローファー『アンディ』を模したもの。(17年も使っているのに……)まだまだ現場では「これどこの?」とよく聞かれます。まさかベルルッティが、こんなに小ワザの効いたアイテムを出していると思っていないんだろうね(笑)。決まって「こういう靴を出していてね…」さらには「ちょうどいま履いている靴なんだけどね」といった具合に、話題に華を咲かせてくれるキーアイテムでもあるのです。